仕草が好きだと思った。
感情豊かな喜怒哀楽も、時折り見せる憂いを帯たも。


―全てが愛しくて、欲しかった―

   
My will

霊界。死者の集う場所、その中に一人の男が居た。彼は、その霊界の住人・コエンマ。閻魔大王の一人息子。かなり頭のきれる男だ。そんな彼に一人、想いを馳せる人物がいる。
その者は普通の人間で、人間界に住んでいる。性格は少々荒っぽい所もあるが、仲間思いの優しい男だ。チームの大将で皆を引っ張る能力もある、名を浦飯幽助。
コエンマは正直、初めて会った時は何とも思っていなかった。只
¨世話のかかる奴¨それだけだ。それが一緒にいる内に笑顔に惹かれ、優しさに惹かれ。いつのまにか、彼自身全てに惹かれていった。
けれど、あの人はきっと自分の事など何とも思っていないだろう。彼にとって自分は、この世界に導いた
¨霊界の偉い人¨
「好きだ」と気持ち伝えたところで、手に入るとも思っていない。驚かれる事は愚か、むしろ拒否られてしまうのではないかという気持ちの怖さから、打ち明けるのをためらってきた。
「コエンマ様、書類です」
「…そこに置いておけ」
「はい」
そんな思いを巡らせていたコエンマに、声をかけたのは部下の一人・ジョルジュだ。コエンマが仕事をしている間、補佐として一番側近にいる者。今のコエンマは人間界を訪れる時と同じ様に、ハンサムな青年の姿をしている。ドサッと何百枚もの白い紙が更に積み重なられたのを見て、コエンマは深く溜め息を吐いた。頭の隅に、無邪気な笑顔が浮かぶ。
「…幽助に、逢いたい…」それが引金。
「は?幽助さん、ですか?」
思わず心の声を外に出してしまって、コエンマはハッとし「何でもない」と言葉を切る。いけない、あまり考えると言葉を伝えてしまう…考えないようにしなければ。
そう思って、仕事に没頭する事にした。


日々は過ぎ、珍しく仕事がなかったその日。コエンマは久々の休養と、いつもの場所へ向かった。傍にはあの幽助の分身、ぷーもいる。この霊界獣と居ると、何故か心安らぐのだ。目的の場所に到着して座りむ。
「…ふぅ…」
風が色素の薄い茶色の髪を揺らした。こうやって独りになると考えてしまって駄目になる。逢いたい…けど会ったら最後、きっと終るだろう。自分の気持ちは止まらなくなる。
武術会や他の仲間がいる時は、何とか気を静め何でもないような振りをして話をしているが、仮に今ここで二人きりになってしまったら危うかった。
「…こんな、…どうすれば良いんだ…」
頭を抱えてうずくまるコエンマ、傍で心配そうに鳴き声をあげるぷー。うずくまったまま顔を上げない彼に、ぱたぱたと一生懸命耳を動かしてコエンマの傍まで寄り、彼の泣き声を慰めるようにくっつく。
「ぷー、…ぷー…」
「…?」
左耳がくすぐったい。コエンマは顔を上げ、鳴き声のするに目をやった。するとぷーが、声をあげながら自分の顔に体を擦りつけていた。
「ぷ…、ぷー」
「…。…もしかして、慰めようとして…くれているのか…?」コエンマの言葉に反応を返す様に「ぷー…」と鳴いた。それに何とも嬉しさが込み上げてくる。「すまない、ありがとう…。お前は優しな…」
曇らせていた表情に俄かに笑みを浮かべ、礼を言いながらぷーの頭を静かに撫でた。
その時、後ろで人の気配がする。眼孔を鋭くして後ろを振りかえると、そこには浦飯幽助が立っていた。
驚きを隠せない。


「よぅ、コエンマ。てっきり暗そうな顔してんのかと思って来てみりゃー明るいじゃんか。心配して損したぜ」
「…ゆ…すけ…。どうして、お前が此処に…?此処は、私しか知らないはず…」
「あ?やー此処に来た途中お前の部下に会ってよ、コエンマが俺に会いたがってたって言ってたから。場所なんざお前の霊気察知すりゃあ一発だぜ!」
拳にぐっと力を入れて、自信ありげに言う幽助。
「…。
(余計なことを…)別に、何も用はない」
幽助の言葉を遮るようにふいっと顔をそらすコエンマ。その態度に幽助は、前々から思っていた疑問を口にした。
「…なんか、よ…」
「…」
「気のせいかもしんねーけど。コエンマって俺と二人っきりになると…目ぇ、合わせてくんねーよな…」
幽助の言葉にドキっとする。まさか、気付かれているとは思っていなかった。必死で隠していたはずなのに。
「前にも、目があってそらされた気がしたんだ…」
「…気のせいじゃ、ないのか?私は別に、お前の事嫌いではないぞ」とっさの嘘をつく。
でも好きな事は本心だ、決して嘘などではない。
「…、そっか。うん、わかった!わりぃな!話そらしちまって!」コエンマの言葉を信じ、明るく振る舞う姿が何故か痛々しい。
「いや、構わない」
それでも普通に振る舞おうとする。もう限界かもしれないと、頭の隅で警告がなる。


「…」
「…」
先程の会話以来、二人は何も喋らなかった。風が二人の間を吹き抜けていく。幽助は雰囲気に我慢しきれず、とうとう言葉を放った。
「…おい、黙ってねーで何か喋れよ…」
「お前が喋れば良いだろう」
「だから!俺はお前の話を聞きにきたんだっつーの!」
「そんな事言われても、私はお前と話すことなど無いんだ。仕方ないだろう」
「じゃあ、何で俺に会いたいと思ったんだ?てっきり話があんのかと思ったのによ」
「…それ、は…」
「?なんだよ?」
「…」
何気無い言葉に息がつまる。此処で言えたら、どんなに楽だろうか。いっその事気持ちを全て押し付けてしまおうか…。

―さらっ…―

「…
?!ιな、なんだ突然!」
「あ、わり。コエンマの髪綺麗だなって思って」言いながら、まだ髪に触れてこようとする。
「勝手に、触るな…!」
コエンマは手を思いきり振り払う。一瞬の出来事だった、幽助の表情が固まる。我に返るが時、既に遅し。
「…っ、すまない…」
「…何、怒ってんだよ…」
二人の間に緊張が走る。先程まで普通だった幽助が、少し怒りをおびている。指先が、冷たくなった気がした。「気に入らねー事があるなら、ハッキリ言えよ…!」
「…」
「中途半端な態度とるな!」
怒って、いる。それは怒りよりも悲しみの混じった声だった。違う、こんな事がしたいんじゃない。目を合わせたら、話をしたら心の内を言ってしまいそうで…言ってしまったら、前のようには戻れなくなる気がしたから…。
「…。…もうそろそろ、限界だな」
呟いた後で、コエンマは幽助のいる方へと向き直った。とっさに相手が構えるのが分かる。気にせず一歩一歩近付き、コエンマは静かに彼を抱き締めた。

ふわんと、柔らかい匂いが風と共に吹き流れる。幽助は今、初めて抱き締められている事に気が付いた。そして、静かに話を切り出すコエンマ。
「…正直、言うか言うまいかかなり悩んだ…。このまま言わないで、一生黙っていようとも思った…」
「…おい、話が見えねーよι」
「…だが、そうすると余計お前を傷つけると…さっきの言葉を聞いて思ってな。すまなかった」
「…コエンマ?」
真剣味を帯びた言葉と謝罪の数々に、幽助は動揺を隠せない。そのまま、コエンマは言葉を続ける。
「…もし拒まれたとしても、仕方ないと思うよ。腹をくくる事にする」幽助に見えないよ
う、きつく抱き締めたまま何かを諦めた様な笑みを浮かべるコエンマ。それで、今後も普通にやっていけるかどうか、分からないけれども…
コエンマは抱き締めていた腕を離し、幽助と目をかち合わせる。
「先程
¨嫌いならはっきり言えば良い¨とお前は言ったが…その逆だよ、幽助。私はお前の事が…好きなのだ…」
幽助の目が、驚きに開かれるのが分かった。無理もない。突然の事で、理解不能なのだろう…予測していた事だ。
「好きと言っても、幽助が思っているような仲間の
¨好き¨ではない。人間界でいう、¨交際や恋愛¨と言う意味の好きだ」
つまりは「愛している」、そういう事だ。幽助の目が更に見開かれる。
「私も正直、最初は驚いた。自分が信じられなかった。けれど、日を追う内にその気持ちが増幅していって…止められなかった」
「…なのかよ」
「ん…?なんだ?」幽助の呟きに、直ぐ様反応を返すコエンマ。
「さっきの事と、今言ってる言葉…本気、か…?」
「ああ、本気だ。冗談でこんな事は言わない」
「…俺に会いたいつってたのも、それが理由かよ」
「…そうだな、思わずぽろっと口に出してしまったらしい」
苦笑するコエンマと、それを見ている幽助。彼の表情が、何故か悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「結論は…出したくなければ、無理に出さなくていい。待ちはしない」
「っ!んだよ、それ!」
「私の言葉を切り捨てるのも、受け入れるのもお前の自由だ。何も無かった事にしてもい
い。けれどもし、今の話の事で言いたい事があれば苦情でも何でも言いにくればいい。」


それから、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。幽助は今、蔵馬・飛影・桑原と共に穏やかな時を過ごしていた。前々からの約束でもあって、飛影はかなり嫌がっていたのだが、蔵馬が無理矢理引っ張ってきたらしかった。
何をしているか、と言えば格闘ゲーム大会。
今は桑原と飛影が対戦を、蔵馬と幽助は勝ち抜いてその様子を後ろで観ている。しかし幽助の意識は上の空のまま。コエンマの言葉が気になるばかりで、何も考えられなかった。
「…ちょ、わり…。外行って涼んでくるわ」
「あぁ?!おい!浦飯!」
「よそ見をするな…!まだ勝負はついていない」
「…」
「すーぐ戻っから!頑張れよ、桑原」
にかっと、特有の笑みを浮かべて幽助はゆっくりドアを閉めて一階へと降りていった。それを、蔵馬は静かに見据える。

秋の夜はとても涼しい。自転車駐車場のすぐ脇の木の木陰に、幽助は佇んでいた。独りに、なりたかったのだ。

―結論は、無理に出さなくていい。待ちはしない―

―無かった事に、してもいい。切り捨てるのも受け入れるのも、お前の自由だ…幽助―

コエンマの言葉が耳に木霊する。あれから2日ほど過ぎたが、一向に答えは出ないままだ。
「そんな事言われたって、放っておけるわけねーだろう…馬鹿野郎っ!何考えてんだよ…!」
混乱する自分を気遣ったつもりなのだろうが、余計に考えるばかりで尚タチが悪い。
「幽助」
「っ!…、蔵馬か…」
答えを出せず、イライラしていた所に後ろから声をかけたのは、先ほどまで一緒にゲームを観ていた蔵馬だった。心配そうな瞳でこちらを見ている。
「大丈夫か?大分行き詰まっているようだけど…」
「あ、ああ…。蔵馬、お前桑原たちと二階にいんじゃなかったのかよ」
「俺もね、少し涼みにきたんだ」
「…」
不思議と蔵馬が傍にいると、気分が落ち着いていく気がした。二人で腰を揃えて、今はその場所に座っている。
「…何か、あった?」
「あ?」
「言いたくないのなら、言わなくても良いけど…」
蔵馬の言葉に、幽助は静かに口を開いた。
「…蔵馬は、誰かに好きだって言われた事あるか?」
「…うん、あるよ。幽助と同じくらいの時にね」
「そいつに、答えって返したか?」
「いや、返さなかった。俺は妖怪だからね、人間とは相入れられない」
「そっか…」
月明かりが二人を照らす。今夜は丁度満月、蔵馬は幽助と病院の屋上で話した夜を思い出した。
「誰かに、そう言われたのか?好きだと…」
「おぅ。…、コエンマの野郎に…この間ちょっとな」
「…そ、か」
やはりな、と心の何処かで蔵馬は思う。薄々と彼の気持ちには感づいていた、それがとうとう幽助本人に伝えられたらしい。どうやら先を越されたようだ。
「でもアイツ、結論は無理に出さなくていいとかぬかしやがってさ。切り捨てるのも、受け入れるのもお前の自由だって…返事は待たねーとよ」少しばかりの戸惑いと。迷いの入り混じった声で、幽助はコエンマの言っていた言葉を口にした。
「それで、言うか言わないか迷ってたんだ?」
「まぁ、な。こんな事初めてだしよ…でもどうしていいか分かんねーんだ」
「…幽助は、コエンマの事どう思ってるんだ?」蔵馬の問いに幽助は考える。そして一言「分からない」とだけ伝えた。
「でもさ…」

―嫌いじゃない―

「それだけは分かってんだ」
「…そうか」蔵馬はそれ以上口にはせず、黙り込んだ。切り捨てて良いと言われて、簡単には切り捨てられるはずがない。言いに行くとしても、こんな中途半端な気持ちで話なんか出来なかった。実際、嫌いじゃないのは確かなのだ。
何かあった時、話に乗って心配をしてくれる。仕事熱心で、部下からの信頼は厚く頼られてもいる。
「…好きだって言われた時、嫌だって思わなかった気もすんだ…驚きはしたけど」
「…」
「後で、落ち着いて考えてもみたんだけど
¨アイツとなら、一緒でも別に良い¨って心ん中で思う自分が何処かに居て」
それは多分、今まで一緒にいた分信頼からくるものだと幽助は思った。そうでなければこんな事思わない。思うはずがない。
「今幽助が俺に言った言葉、正直に彼に伝えてみたら良いんじゃないか?」
「え?」
「変に考えるより、今思ってる事を伝えた方がスッキリすると思う」考え悩む幽助に、手助けとでも言うように蔵馬は言った。

「それにね、こういうのって両成敗なんだよ」
「?なんだ、そりゃ」
きょとんとする幽助に、蔵馬は優しく微笑んだ。それがコエンマの笑みと何故かダブる。
「言い方は悪いけど、互いの気持ちを押し付けるからね。気持ちの方向が噛み合えば良いけど、そうじゃなければ負担になるし」
「あー成程な。なんかサンキュな、こんなめんどくせー話聞かせちまって。結構スッキリした!」
「いや、構わないよ。それに俺も…今彼と同じ立場だから何と無く分かるんだ」
「何、蔵馬ってそういう奴いたのか?」
「まぁ、ね。気持ちは伝えて無いけど」
「へぇ」
「さ。そろそろ、部屋へ戻ろうか」
「おう!」二人は笑いあいながら、その場を後にした。

何日も、日が過ぎた。霊界では相変わらず仕事に埋もれているコエンマ。あの日以来、幽助とは会っていない。もう一週間は過ぎた。返事はいらないとは言ったが、どこかで期待している自分が居てそれがどうしようもなく恥ずかしい。
「…今更後悔しても、仕方がないか…」
思いをふっ切ろうと仕事に没頭していると、部下のあやめが声をかけてきた。
「コエンマ様、お客様です」
「通せ」
「かしこ参りました」
あやめは一礼をすると、「どうぞ」と一声かける。扉は自動ドアの様に簡単に開いた。そこには思いもよらない人物が立っていた。
「よぅ、コエンマ。相変わらず忙しそーだな」
「っ、幽助…」目を見開いた。
「なんだよ、その意外そうな顔は。俺が此処に来ちゃいけねーのか?」一週間と少しぶりの最愛の人の顔は、嫌な気持ちを一瞬で吹き飛ばしてくれた。コエンマは「まだ好きなのか」と気持ちを再確認する。
「いや、ただ驚いただけだ…」
「…ま、いーけどよ。ちょっと話がしてーんだけど、今いいか?」
「…いいだろう。あやめすまない、少し席を外す」
「了解致しました、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
コエンマは幽助についていき、部屋を後にした。
場所は中庭。そこで幽助は足を止める。同じ様にコエンマも足を止めた。「ここなら、誰もこねーよな」辺りを見回しながら話しかける幽助。今回はぷーがいないので、本当の二人きり。コエンマはそんな幽助の後ろ姿を眺めている。てっきりもう話しかけてくる事
が無いと思い込んでいたため、先ほどの突然の彼の登場には心の底から驚いた事だった。
ぼぅっとそんな事を考えていると、ふいに幽助がこちらを向く。
「この間も思ったけど、珍しく幼児姿じゃねーんだな」
「…たまに、霊界でもこの姿で仕事をしている時もある」
「ふぅん」
「さて、話たい事があるんだろう?なんだ?」
「…この間の、話の答え…」
「…」
この一週間、幽助は懸命に答えを考えた。コエンマの言葉や表情が気になって眠れない日もあった。彼も、すました顔をしているがそんな日があったんだろうか。蔵馬に助言して貰ってからは、随分考えがまとまりスッキリはした。あとは彼に対しての、自分の気持ちを伝えるだけ。
「俺の答えを言う前に聞きてーんだけど、…まだ俺の事好きか?」
「…当たり前だろう、そう言っているだろうが」
「そう、かよ…」
「それとも、信じらないか?私の言うことが…」
「や、そーいう訳じゃねーけど。(改めて言われっと恥ずかしいんだよ!)…お前が冗談で言ってるとも思えねーし」
「そうか…」
彼の真剣な言葉を聞いて、コエンマは安緒の息を漏らした。自分の言葉を少しも流さず、
ちゃんと考えてくれていたのだ。それだけでも、もう充分だと心から思う。
「幽助が嫌なら、切り捨てても良いんだぞ?」
「…」
「遠慮も、しなくて構わん」
後ろを振り返りながら言葉を続けるコエンマに対し、幽助はやれやれと言うように軽く溜め息をついた。そのまま後ろ姿のコエンマに近付き、デコをくっ付けて寄りかかる。寄りかかられた彼は驚き、顔だけを少し幽助の方に向けた。
「な、に…?」
「まだ何も言ってねーだろが!まず俺の話を聞けっつの!」
「…っ」
「あん時、驚いた。今でも理解出来ねー部分とかあるし」
「…」
「けど…何て言っていいか分かんねーけど、嫌じゃない自分も居るのは確かなんだ…」幽助の意外な言葉に、コエンマはハッとする。
「普通なら男だし、
¨ふざけんじゃねぇ¨って思うけど、何でかそーなんねぇし。それにお前の傍なら、別に一緒に居ても嫌じゃないって思う…。愛とかは別としてだけどな」心拍数が上がるのが分かる。自分で言っていて何やら恥ずかしい。
「だから俺からの結論。お前の言葉、受け入れてやるよ」
彼特有の悪戯っ子の様な笑みで晴々と言いのける彼を、コエンマは唖然とする裏信じられないと思った。
「…。本当にいい、のか?後悔しないんだな…?」
「しねーよ、男に二言はねぇ!」
「後で離せと言われても、一生離さんからな。こう見えても私は執念深いぞ?」
「そんなの今更だろが。…あ!でも条件がある!」
「なんだ?」
ハッとしたように指を一本ピッと立てて幽助は急いで意見を申し立てる。
「くれぐれも変な事はすんなよ!」
「…ιそれは無理だ、聞けん」彼の言葉に一瞬よろけそうになるコエンマ。
「何ぃ゛?!」
「当たり前だ!己はアホか!恋人なら、それ相応の事をするに決まっとろーが!」
「んな事言ったってなぁ!恥ずかしーし慣れてねーんだから仕方ねぇだろ!」
「ぐっ…だが、手を繋ぐとか頬にキスくらいは良かろう?何も出来ないと、こっちとしてはちと辛い」
「…っ、まぁ…それぐれーならいいけど、よ…」
互いに視線を絡み合わせたまま、沈黙が訪れる。それを先に破ったのはコエンマの方だった。
「…幽助…」
「あんだよ?」
「…ありがとう」
「…!おう」
想いを伝えたい人が彼で良かったと、コエンマは声に出さず思う。何も知らず笑っている幽助に気付かれないよう、普段は笑いを浮かべる事の無い綺麗な顔に微笑みを作った。
「あ!ぷーじゃねーか」
「え?」
幽助が声をあげた方に視線をやると、ぱたぱたと耳を動かしてこちらに向かって飛んでくるぷーが見えた。
「ぷー、ぷぅぷぅ」
「おめーよく此処が分かったな」幽助の手の平に着地するぷー助。「ぷぅ!」と元気よく鳴く霊界獣を幽助は撫でた。それを遠目で眺めているコエンマ。
「ぷぅぷぅ」
「お?なんだ?」
ぷーは突然幽助の手元を離れ、コエンマのいる方へと飛んで行った。
「こらこら、ぷーどうした?お前昼寝中じゃなかったのか?」飛んできたぷーを両手で受け止め話しかけるコエンマ。
「…」

二人で話をし終った後、ぷー助と一緒に城へ戻るコエンマと幽助。
「…」
「…」
先ほどのぷーに話かけていた時のコエンマの表情。滅多に人に笑顔を見せない彼が、あんな風に笑うのを幽助は五本の指で足りるほどしか見たことが無かった。
「…」
「…なんだ?私の顔に、何かついているか?」視線に気付いたコエンマが、幽助に問う。
「や、そーじゃねーけど」
「?」
「お前って…部下とか他の奴には笑わねーくせに、ぷーには笑うよなって」
「ああ、その事か。コイツといるとな、不思議と落ち着くんだよ」
「ふぅん?その落ちつく理由はどっから来るんだよ?」
今度は幽助からの問いに、コエンマは言うのをためらった。少し考えてから、彼とは目を合わさずに正面を向いたまま答える。
「…言うとお前、怒るだろ?」
「何だよ、俺が怒るような理由なのか?」
「…さぁな、怒ると言うより恥ずかしいという方が正しいか。」
「んだよそれ、ハッキリ言いやがれ!おいコエンマ!待てっつの!」
無言のまま、スタスタと足早に前へ進むコエンマを、幽助は慌てて追い掛ける。
「…幽助の、霊界獣だからな…」
「は、なんだって?聞こえねーよ!」
「もう、二度と言わん」
「な!聞こえなかったんだよ、もう一回言えっつーのに!」
「やだ」
「〜〜っっ!この野郎…!」
まったく子供か。聞き取れなかったのが悔しくてか、隣で歩きながらぶーたれてる最愛の人がいる。コエンマは、それが何やらおかしくて「くっく」と笑いを洩らした。
「何笑ってんだよテメー」
「いやすまんすまん、何でもない。幽助は可愛いな」
「嬉しくねーよ!つか、頭撫でんな!」
あまりの愛しさからか、無意識の内に幽助の頭を撫でてしまうコエンマ。幽助も何だかんだと文句を言いながら、大人しくされるがままだ。
「…一週間前…」ふいに口を開く幽助。
「ん?」
そう、まだ遠い記憶じゃない一週間と少し前。ずっと言いたかった事がある。
「お前が好きだつった時、俺の事抱き締めただろ?」
「それが、どうかしたか?」
「あん時さ…寂しかったんだ」
「は?どういう意味だ?」
「よく、分かんねーけどっ」
好きだと言われ、目の前にいる人の腕が自分から離れていくのを感じた時、幽助はどこかで寂しいと思っていた。実際今はこうして触れられて、嬉しいというより
¨安心¨している自分がいる。
「お前の腕が離れてった時、なんか寂しかったんだよ!」
「…」
「そんだけだ。もう、この話やめやめ!」
「…」
頭をガシガシと掻きながら今度は幽助がコエンマを追い抜いて先を歩いた。多分、いや絶対。今の彼の言葉は無意識だろう、そうとは言え聞いているこっちが恥ずかしいやら嬉しいやらで…。
「これだから敵わん…。幽助!」
「ん?なんだよ」
「もう、少ししたら…仕事が一段落するんだ…」
「?」
「仕事が終ったら…私と、一緒に…幽助の居る、人間界の街を一緒に歩いてはくれないか?」
「…?いいぜー歩いてやんよ!」
「…」彼の笑顔を見て、ほっと安緒が込み上がるのがわかる。
「街歩いたらゲーセンも行こうぜ!」
「ゲーセンとは、ゲームセンターか?」
「よく知ってるじゃねーか」
「私をなめるな」





     君と隣り合って


  手を繋いで歩ける、今この時を


 
   とても幸せに思う









END







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